男の終わり(独白)

 

 

「色々考えたんだけど、別れたい」

ここで沈黙。

「ごめん、」

ここで席を立ってどこかに行った。

 

涙を堰き止めて帰ってくる。

「話はまだ終わってなくて、」

(中略) もうなにを話したか覚えていない。

「場所変えない?」

ここで外に出る。

 

「もっと考えてほしかった、というか」

「わたしは嫌われないために、あなたに先のことを聞かなかったのに、」

ここでもう駄目になる。

嗚咽みたいに泣いてしまう。

「ごめん、」

「わたしはまだ好きだよ」

ここで目を見る。これまでの選択をすべて恨む。

(中略) 震える。

「もう、わからない。」

ここで自我が溶けて、自己防衛しかできなくなる。

いよいよ、人間の本性。

 

「どうしたらいいのか、わからない」

「あなたが変わればいいんじゃないの」

雷撃、ふたつのことを理解する。

ひとつ、君は僕に変わって欲しかったということ。

ふたつ、僕は君のために変われないということ。

 

(中略) 言葉が拍車をかけて乱れる。文脈も追えなくなる。

 

「でも、」

「それって聞かなきゃだめ?」

ここで目をまた見る。

もう敵を見る目になっている。

 

(中略) すこし落ち着く。もう戻れはしない。

 

「ごめん、」

「付き合うことがあなたにとって負担なら、別れよっか。」

ここですこし黙ってしまう。

「うん。」

「ありがとう、今まで楽しかった。」

涙は見えないし、言葉も目も、全部冷たかった。

ここで立ち上がる。

 

「あの、これ、この前の立て替えてくれたお金、」

「いや、いいよ。」

軽蔑の目。負け犬は最後まで惨め。

 

 駅に向かう。5歩後ろを歩く。

こんなに惨めなことがあるか!

頭の中さえ情けなく、嫌われてしまった、怒らせてしまった、それで埋まる。

母を怒らせたときと同じ感覚で、けれど最後まで円満に、なんて虫が良すぎる。

別れにこそ、人の本性が出る。

これまでの日々も丁寧にやっていれば、断面も綺麗だ。

つぎはぎ、取り繕ってきた人間が断面だけ整えようたって、猿真似、男の弱点。

 

「コンビニ寄って帰る。」

「そう、じゃあね。」

「うん」

真っ直ぐに歩いていく。

戻れない、戻れない。

 

自分を疑う。

抱えきれなくなった、綺麗な石を川におもむろに投げて、流れてゆくのを惜しい顔をして見ている。

正気なのか。

 

「金の切れ目が縁の切れ目、ってのはね、あれはね、解釈が逆なんだ。金が無くなると女にふられるって意味、じゃあ無いんだ。男に金が無くなると、男は、ただおのずから意気消沈して、ダメになり、笑う声にも力が無く、そうして、妙にひがんだりなんかしてね、ついには破れかぶれになり、男のほうから女を振る、半狂乱になって振って振って振り抜くという意味なんだね、可哀そうに。僕にも、その気持わかるがね」太宰治 某長編より抜粋

 

可哀そう。

自分を客観視すればするほど、ただ可哀そう。

こんな馬鹿な男がいるもんか。

 

もし、この世のすべての女性に、ひとつ啓発できるならば、言いたい。

 

心、金、明日の希望。これらがみな貧乏なのに、それをどうにも人に相談できず、また見栄も張り切れないような男は、あなたの日々を突如として裏切ると。

 

可哀そう。

孤独な自分しか愛せないなんて。